からウイスキー曹達《ソーダ》を、お引っくり返しになったの……」
「ゲッ……お前見てたのかい」
「ホホホホ。ビックリなすったでしょ」
兆策は自然木の椅子にドッカと尻餅を突いた。気抜けしたように溜息をして取散らした室内を見まわすと、醜い顔に不釣合な大きな眼をパチパチさせた。
「……ど……どうして聞いたんだい。タッタ今帰って来たばかりなのに……」
美鳥は淋しく笑いながら向い合った椅子に腰を降ろした。
「何でもないことよ。妾だって今度の轟さんの事件ではずいぶん頭を使っているんですもの。ホントの犯人が誰だか色々考えているうちに、万一貴方が疑われるような事になったらドウしようと思って一生懸命に考えまわしていたのよ」
「フーン。どうして二人に嫌疑がかかるんだい」
「お兄さん御存じないの。昨夜《ゆんべ》十二時頃、轟さんと呉羽さんとが、支配人の眼の前で大喧嘩をなすった事を……」
「知らなかったよ。俺はその頃お前と二人で、ここで茶を飲んでいたんだから」
「ええ。そうよ。ですから妾も知らなかったんですけどね。小間使のイチ子さんが今朝《けさ》になって、その事をおヨネさんに話したんですって……そうしたらおヨ
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