関係を疑ったような事を云ってね……ですから妾ヤット気が付いたのよ、今捕まっているのはホンモノの生蕃小僧じゃない。ドッサリお金を掴ませられているイカサマの生蕃小僧で、公判になったらキット供述を引っくり返すに違いない。だから本物の生蕃小僧はアノ支配人の笠圭之介……」
「フ――ム――」
 江馬兆策が頭を抱えて椅子の中に沈み込んだ。眼をシッカリと閉じて、モジャモジャした頭の毛の中へ十本の爪をギリギリ喰い込ませた。
「……ね……こんな事があるのですよ。今もお話した通り、生蕃小僧の脅迫状が来なくなってから轟がホントウに活躍を初めたのが大正十四年頃でしょう。それからあの呉服橋劇場を買ったのが昭和三年の秋ですから、その間に三四年の開きがあるわけでしょう。その間に生蕃小僧が悪い仕事をフッツリと止めて、あの呉服橋劇場の支配人になり済ますくらいの余裕はチャントあるでしょう。生蕃小僧があんなにムクムクと肥って、丸きり見違えてしまっている事も、考えられない事じゃないでしょう。そこで生蕃小僧は上手に轟さんに取入るか、又は影武者の生蕃小僧に脅迫状を出させるか何かしてあの劇場《こや》を買わせたのよ。そうしてあの劇場の
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