蕃小僧はスッカリ喜んじゃったのですね。大胆にもオッチニの金モール服のまま、他所《よそ》から帰って来る若親分を、町外れの草原《くさはら》で捕まえて面会したのだそうです。そうして奥さんの不行跡《ふしだら》を自分一人が知っている事のように洗い泄《ざら》い並べ立てて脅迫しながら、済まないがここのところを暫くの間、眼をつむってもらえまいか。稼ぎ高を山分けに致しますから……とか何とか厚顔《あつか》ましい事を云って、柔らかく固く相談をしますと、不思議にも若親分が、青い顔をして暫く考えた後《のち》に、黙って承知したんだそうです。モトモト久蔵親分は、好きで渡世人になった訳じゃないし、法律の一つも心得ているだけに、東京へ出て一旗上げたい上げたいと思いながら、因縁に引かれ引かれて足を洗いかねているところへ、最愛の女房《おかみさん》から踏み付けにされちゃったのですからスッカリ気を腐らしたのでしょう。そうして生蕃小僧に別れると直ぐに久蔵親分は、甘木柳仙の処を尋ねて、すみませんがモウお雛様がお片付きのようですから、御宅のお嬢さんを又、暫く私に貸して頂けますまいか。久し振りに抱《だ》っこして寝たいですからと申込みま
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