した……久蔵親分は若い人に似合わない子供好きで、見付の子供は皆オジサンオジサンと云って懐《なつ》いていたそうです。わけてもこの柳仙の処の子供は、特別に可愛がっていたせいでしょう。まるで親のように懐《なつ》いておりましたし、それまでにも度々そんな事がありましたので、柳仙夫婦は快く子供の着物を着かえさしたりお菓子や寝床まで風呂敷に包んで、若親分に渡してやったそうです。
 ……それから若親分は自宅へ帰ると、直ぐに乾児《こぶん》どもを呼集め、その大勢の眼の前に、若い奥さんと世話人を呼付けてアッサリ離別を申渡しましたので、二人ともグーの音《ね》も出ないで荷物を片付けてスゴスゴと田舎へ帰りました。それを見送った若親分は……ほんとに済まない事をした。俺の顔ばかりでなくお前たちの顔まで潰してしまった。俺はモウ決心を固めているのだからこの際何も云うてくれるなと云って乾児《こぶん》の中《うち》の一人に自分の席を譲り、その場で、お別れの酒宴を初めました。
 ……一方に柳仙夫婦の一軒屋へ生蕃小僧が忍び入って、夫婦と女中の三人を惨殺し、家中《うちじゅう》を引掻きまわして逃げて行ったのは、ちょうどその暁方《あけが
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