ぐ隣室になっている廊下の突当りの轟氏の居室《いま》に這入《はい》った。流石《さすが》に豪華なもので東と南に向った二方窓、二方壁の十坪ばかりの部屋に、建物の外観に相応《ふさわ》しい弧型《こけい》マホガニーの事務机《デスク》、新型木製卓上電話、海岸傘《ビーチパラソル》型電気スタンド、木枠正方型|巻上《まきあげ》大時計、未来派裸体巨人像の額縁、絹紐煽風機、壁の中に嵌め込まれている木彫《きぼり》寝台の白麻垂幕《ドロンウォーク》なぞが重なり合って並んでいるほかに、綺麗に拭き込んだ分厚いフリント硝子《ガラス》の窓から千万無数に重なり合った樫の青葉が午後の日ざしをマトモに受けてギラギラと輝き込んで来る。盛んに啼いている蝉《せみ》の声も、分厚い豪奢な窓|硝子《ガラス》に遮られて遠く、微《かす》かにしか聞こえず、壁が厚いせいであろう、暑さもさほどに感じられない。近代科学の尖端が作る妖異な気分が部屋の中一パイにシンカンとみちみちしている感じである。
「この家《うち》の中は随分涼しいんですね」
「どこかに冷房装置がしてあるらしいね……ところで見たまい。被害者はこの事務机《デスク》の前の大きな廻転椅子に腰をか
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