ヘエ。つまりこの新聞記事以外の事は、わかっていないんでしょうか」
「馬鹿な。まだまだ重大な秘密がわかっているんだよ」
 文月巡査の眼がキラキラと光った。
「……ソノ……僕はツイ今しがた、非常で呼出されて来たばっかりで何も知らないんですが。来ると同時に署長殿からモウ帰っても宜しいと云われたんで、実は面喰《めんくら》ったまま貴方《あなた》に従《つ》いて来たんですが」
「見せてやろうか……現場を……」
「ええ。どうぞ……」
「絶対に喋舌《しゃべ》っちゃイカンよ。誰にも……」
「ハイ……大丈夫です」
「よけいな見込を立てて勝手な行動を執《と》るのも禁物だよ」
「……ハイ……要するに知らん顔しておればいいのでしょう」
「……ウン……新米の連中は警察が永年鍛え上げて来た捜索の手順やコツを知らないもんだから、愚にも付かん理屈一点張りで行こうとしたり、盲目滅法《めくらめっぽう》にアガキ廻って却《かえ》ってブチコワシをやったりするもんじゃよ。こっちへ来てみたまえ。ドウセイ退屈じゃからボンヤリしとったて詰まらん。将来の参考に見せてやろう」
「ありがとう御座います」
 二人は丸腰のまま応接間をソッと出て、直
前へ 次へ
全142ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング