ご》一面の無精鬚をゴリゴリと撫でまわして腕時計をチョット覗いたが、やがてブカブカした緞子《どんす》張りの安楽椅子に反《そ》りかえって長々と欠伸《あくび》をした。
「ア――ッと……ここが捜索本部と発表しとるのに、新聞記者が一向遣って来んじゃないか」
「モウ朝刊の記事を取りに来る頃ですがね」
「司法主任はここを本部と見せかけて新聞記者を追払わんと邪魔ッケで敵《かな》わんというて、そのために僕をここによこしたんじゃが、サテは感付かれたかな。近頃の新聞記者はカンがええからのう」
「司法主任は、よほどこの事件を重大視しておられるのですね」
「むろん重大だよ。被害者が被害者だし、事件の裏面によほど深い秘密があるものと睨んでいるのだからね」
「それにしては新聞記事の本文がアンマリ簡単過ぎやしませんか」
「ナアニ。新聞記者にはソンナ気ぶりも匂わしちゃおらんよ。この前よけいな事を素破抜《すっぱぬ》きやがった返報に、絶対秘密を喰わせている。二三人来た早耳の連中が、夕刊の締切が近いので、それ以上聞出し得ずに慌てて帰って行った迄の事よ。しかしそれにしては良く調べとる。コチラの参考になる事が多いようだねえ」
「
前へ
次へ
全142ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング