一生涯の秘密を曝露《バラ》した筋なんですから……これを見たら今度の事件の犯人だって、たまらなくなって、まだ誰も知らない深刻な事実を白状するに違いないと思われるくらいスゴイ筋なんですからね……自慢じゃありませんけど……ホホホ……」
彼女はスッカリ昂奮しているらしかった。白磁色の頬を火のように燃やし、黒曜石《こくようせき》色の瞳を異妖な情熱に輝やかしつつ、彼女の方からウネウネと身体《からだ》を乗出して来たので、たまらない息苦しい眩惑をクラクラと感じた支配人は、今更のようにヘドモドし初めた。相手の白熱的な芸術慾に焼き尽されまいとして太い溜息を何度も何度も重ねた。ハンカチで汗を拭き拭き慌て気味に問い返した。
「……ド……どんな筋書で……」
「それは……ホホホ……まだ貴方に話さない方がいいと思うわ。兎《と》に角《かく》一切貴方に御迷惑かけませんから貴方は今から九月の七日過ぎる迄、久振りに温泉か何かへ行って生命《いのち》の洗濯をしていらっしゃい。タッタ一箇月かソコラの間ですから、その間中貴方は絶対に妾の事を忘れていて下さらなくちゃ駄目ですよ。さもないと将来の御相談は一切お断りしますよ。よござんす
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