手酷しいですな今夜は……下へ行くと新聞記者がワンサと[#底本では「と」が脱落]待ちうけているんですよ。犯人の逮捕を警察で発表したらしいんですからね。どうしても僕じゃ承知しないんです。貴女《あなた》でなくちゃ……」
「新聞記者の方が五月蠅《うるさ》くないわ。貴方の質問よりも……」
「そう邪慳に云うものじゃありません。だからよく打合わせとかなくちゃ……その……これはこの劇場の運命と重大な関係のある話なんですよ。この劇場の運命は貴女《あなた》の御返事一つにかかっていると云ってもいいんです」
「勿体振る人あたし嫌い……」
「いいですか……ビックリしちゃ不可《いけ》ませんよ」
「余計なお世話じゃないの……ビックリしようとしまいと……早く仰言いよ」
「それじゃ云いますがね……貴女《あなた》はね……」
「あたしがね……」
「この頃毎晩女中が寝静まってしまってから……轟さんの処へ押かけて行って、結婚したい結婚したいって仰言るそうじゃないですか……ハハハ……どうです……吃驚《びっくり》したでしょう……」
 呉羽は見る見る中《うち》に硝子《ガラス》瓶のように血の気を喪った。屹《き》っと身を起して笠支配人の
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