いんだが、音楽学校出身の才媛で、兄貴とはウラハラの非常に品のいい美人なんだ。何でも、死んだ轟氏がパトロンで兄妹の学費を出してやったという話だが、その妹と轟氏との関係の方がダイブ怪しいらしい」
「ああ。もうソンナ怪しい話はやめて下さい。ウンザリしちゃった」
「イヤ。今度の事件とは関係のない、全然別の話なんだ。何でもその歌姫《ソプラノ》を轟氏が可愛がっているお蔭で、兄貴までもが御厄介になっているらしいという、松井ヨネ子[#底本では「子」が脱落]の話だがね」
「ウルサイ奴ですね。アノ飯焚女《めしたきおんな》は……」
「おお。女中といやあ今の小間使の市田イチ子もチョットういういしい、踏める顔だよ。紹介してやろうか。今に茶を持って来るから……」
「イヤ。モウ結構です。僕は帰ります」
「まあいいじゃないか。ユックリし給え。君は女が嫌いかい」
「探偵小説があれば女は要りません」
「そんな事を云うもんじゃないよ。まあ見て行けよ。別嬪《べっぴん》の顔を……」
「イヤ。帰ります。お邪魔をするといけませんから……」
「アハハハハ。コイツはまいった……」
ちょうどその時分であった。呉服橋劇場五階に在る呉羽
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