た。そんなら丁度いい。夕飯を喰ってから一つステキな美人を見せてやろう」
「ヘエ。まだ美人が居るんですか。この家に……」
「いや。この家じゃないがね。ツイこの裏庭の向う側なんだ。呉服橋劇場の脚本書きでね。江馬《えま》[#底本では「司馬《しま》」と誤記]何とかいう人相の悪い男が、妹と二人で住んでいるんだ」
「アッ。江馬[#底本では「司馬」と誤記]兆策が居るんですか。コンナ処に……」
「何だ。君は知っとるのかいあの男を……」
「探偵小説を読む奴でアイツを知らない者は居ないでしょう。相当のインテリと見えますが、非常な醜男《ぶおとこ》のオッチョコチョイ、一流の激情家の腕力自慢というところから、よくゴシップに出て来ます。芝居に関係している事は初耳ですが、田舎ダネの下らない探偵小説を何とかかんとかといってアトカラアトカラ本屋へ持込むので有名ですよ。彼奴《あいつ》の小説を読むよりも、写真に出ている彼奴《あいつ》の顔を見ている方が、よっぽどグロテスクで面白い……」
「その妹の事は知らないかい」
「妹が居る事も知りません」
「その妹というのが、真実の兄妹[#底本では「兄弟」と誤記]《きょうだい》には相違な
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