なあ。早くそう云って下されあコンナに頭を使うんじゃなかったのに……」
「そんなに頭を使ったかね」
「……どうも変だと思いましたよ。笠支配人と呉羽嬢に対する嫌疑がチットモ掛らないまま芝居へ行っちゃったんですからね」
「当り前だあ。その時にはモウ犯人の爪印《つめいん》が済んでいたかも知れん」
「ヘエ。それじゃあ……」
と文月巡査が妙な顔になってキョロキョロした。
「ここが捜索本部と仰言ったのは……」
「ナアニ。あれあ嘘だよ。君が探偵小説キチガイで、まだ一度も実地にブツカッタ事がないって云ってたから、ちょっとテストをやってみた迄よ。ちょうど今日は僕も非番だったから笠支配人に頼まれて、ここで[#底本では「ここへ」と誤記]留守番をしてやる約束をしたもんだからね。キット退屈するに違いないと思って君をペテンにかけて引っぱって来たわけさ。どうだい面白かったかい」
「ああ。つまんない……」
「アハハ。そう憤《おこ》るなよ。モウ暫くしたら夕食が出るだろう。その中に呉羽嬢が帰って来たら一度見とくもんだよ。奥さんにいいお土産だ」
「……相すみません……僕はまだ未婚です」
「おほほう。そうかい。そいつは失敬し
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