じに非常召集をした連中がポツポツ来るのを追返してしまった。笠支配人と呉羽嬢も司法主任からの説明を聞いて大喜びで劇場に行ってしまった。それでおしまいさ。アハハハハ……」
「なあアんだい……」
猪村巡査は高笑いしいしい立上った。文月巡査の背後にまわってダブダブの制服の背中を一つドシンとどやし付けた。
「ハハハ。馬鹿だな君は……そんなに探偵小説にカブレちゃイカンよ」
文月巡査は首筋まで真赤になってしまった。眼を潤ませながら真剣になって弁明した。
「……コ……これは僕の趣味なんです。ボ……僕の巡査志願の第一原因は、やっぱりメチャクチャに探偵小説を読んだからなんです」
「馬鹿な。探偵小説なんちういうものは何の役にも立つもんじゃない。その証拠に探偵作家は実地にかけると一つも役に立たん。自分の作り出した犯人でなければ絶対にヨオ捕まえんというじゃないか……」
文月巡査は残念そうに深いタメ息をした。瞑想的な、幾分気取った恰好でMCCの煙を吐いた。
「ああ……タタキ附《つけ》られちゃった」
「アハ……御苦労さんだ。トウトウ犯人を取逃しちゃったね。フフフ……」
「どうも貴方《あなた》は意地が悪いんです
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