一流の早業で不意打にやっつけました。それがちょうど三時半頃だったと思います。そのまま窓から飛出してしまいましたが……恐れ入りました……」
「……ナアアンダイ……」
「アハハハ。恐れ入ったかい。ハハハ。モウ文句は申しません。潔く年貢を納めますと云ったきり口を噤《つぐ》んでしまったのには少々困ったね。その轟九蔵との古い関係についても固くなって首を振るばかり……しかし現場《げんじょう》の説明から、殺す挙動《しぐさ》まで遣って見せたが、一分一厘違わなかったね。野郎、商売道具の足首を遣《や》られたんでスッカリ観念したらしいんだね」
「それにしても恐ろしくアッサリした奴ですね。首が飛ぶかも知れないのに……」
「殺人強盗の中にはアンナ性格の奴が時々居るもんだよ。ちょうど来合せた呉羽嬢と笠支配人にも突合わせてみたが、どちらも初めてと見えて何の感じも受けないらしい。ただ犯人が呉羽嬢に対して、すみませんすみませんと頭を二度ばかり下げただけで調べる側としては何の得るところもなかった」
「それからドウしたんです」
「どうもしないさ。推定犯人が捕まって自白した以上、警察側ではモウする事がないんだからね。君等と同
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