察して、信じ切っていたらしい事も想像され得るじゃないですか」
「ううむ。そういえばソウ考えられん事もない。ナカナカ君は頭がええんだな」
「……そ……そんな訳じゃないですが……それから事件当夜の二時頃に主人の部屋に居た呉羽嬢の行動に関する秘密……」
「……あ……そいつはドウモ当てにならんよ。何度も云う通り市田イチ子の陳述がアイマイじゃから……」
「アトからアイマイになったんでしょう。ですから一層的確な意味になりはしませんか」
「中々手厳しいね。僕が訊問されとるようだ」
「ハハハ。いや。そんな訳じゃないですが……アトは轟九蔵氏の絶命時間の推測です。昨夜何時頃という……」
「ハハハ。二時以後だったら断然、呉羽嬢をフン縛るつもりかね……君は……」
「その方が間違いないと思います」
そう云う文月巡査の顔からは血の気がなくなっていた。背筋へ氷を当てられたような笑い顔をしながら三本目のMCCへわななくマッチを近付けた。そうした昂奮を気持よさそうに眺めやった猪村巡査は、毛ムクジャラの両手をノウノウと後頭部に廻した。
「ところがその絶命の時間がモウわかっているんだよ。サッキ本署へ電話をかけてみたら、一
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