出したり、花柳の巷《ちまた》を泳ぎまわったりするような不規則は絶対にした事がない……という証言だ。全くの独身生活者で、ただ娘分の三枝を、世界一の探偵劇スターとして売出す事以外に楽しみはなかったらしいのだ」
「ヘエ。面白いですね。そうした変態的な男と女と二人切りの生活が、全くの裏表なしに継続出来るものでしょうか」
「アハハ。ナカナカ君は疑い深いなあ。まあこっちへ来たまえ。ユックリ話そう」
 二人は又、応接間へ引返して申合わせたように又もMCCを抓《つま》んだ。
「美味《うま》い煙草だなあ。一本イクラ位するもんかなあ。二十銭ぐらいしはせんか」
「イヤ。そんなにはしないでしょう。二十銭出せば葉巻が二本来ますからね」
 二人は互いちがいにコバルト色の煙を吹上げ初めた。
「君は天川呉羽と轟九蔵の性関係を疑っとるのじゃろう」
 文月巡査が忽ち赤くなったが、そのまま微笑してうなずいた。
「ハハハ。ナカナカ隅に置けんのう君も……」
「やはり……その……何かあるんですか」
「ところが今のところ、何も疑わしいところがないんだよ」
「十分……十二分に疑ってみる必要があると思いますなあ。事によると今度の事件の
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