と云う」
「成る程。……そこでサッキの呉羽嬢のお祈りの文句に触れてみたかったですな。何か参考になる事を喋舌《しゃべ》らして……」
「ウン司法主任がチョット触れていたよ。ちょうどその時に、女中を訊問していた刑事の梅原君が、その事に就いて取あえず報告したもんだからね……すると果せる哉《かな》だ。……あれは妾《わたし》があの時|口惜《くや》し紛れにそう申しましただけの事で、女の妾に何がわかりましょう。犯人が出て行った方向を拝みましたのは、そうすると遠くに居る犯人が何となくドキンドキンとして思わぬ失策を仕出かすという迷信が、外国の芝居に使ってありましたのでツイ、あんな事を致しまして……と真赤になって弁解しておった。だから、つまり目的は宣伝に在ったのだね。これは彼等の本能なんだから、深く咎めるには当らないよ。司法主任も検事も苦笑しておったよ」
「ソレッキリですか」
「イヤ……それから呉羽嬢はコンナ事を云い出しおった。……ハッキリとは申上られませんが、轟はこの四五日前から何だかソワソワしていたように思います。今までドンナ悲況に陥っておりましても、私を見ると直ぐにニコニコして何か話かけたりしておりま
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