であったばかりでなく、毎日毎日手入れをしておかなければならぬ位ヒドイ怨みであった事が想像出来るじゃろう。ところでその轟氏が恐れている相手が、向うの窓を轟氏の手で開けさせて這入って来たのに、轟氏はそのピストルを手にしておらぬのみならず、自分で窓の締りをあけて導き入れたものとすれば、その人間は被害者の轟氏にとって、よっぽど恐ろしい人物であったという事になる」
「そんなに恐ろしい脅迫力を持った人間が、この世の中に居るものでしょうか。自分を殺しかねない相手という事が、被害者にわかっていれば尚更じゃないですか」
「そこだよ。そこに何となく大きな矛盾が感じられるからね。判検事も司法主任も相当弱っていたらしいんだが、間もなくその矛盾が解けたんだ」
「ほう……どうしてですか」
「わからんかい」
「わかりませんねトテモ。想像を超越した恐ろしい事件としか思えませんね。これは……」
「ナアニ。それ程の事件でもなかったんだよ」
「ヘエ。どうしてわかったんです」
「その事務机《デスク》の曳出《ひきだし》を全部調べたら、右の一番下の曳出から脅迫状が出て来たんだ」
「ホオー。何通ぐらい出て来たんですか」
「それがソ
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