「しかし、それあ、あっしみてえな人間にとっちゃ、及びもねえ事かも知れねえ。だから万一御用を喰っちまえあ、貴女《あなた》の罪を背負って行くのがタッタ一つの楽しみでさ。ヘヘヘ。あっしみてえな人間の心あ貴女《あなた》みてえな女《ひと》でなくちゃあ理解《わか》ってもれえねえからな」
「……………………」
生蕃小僧はチョット涙を拭いてニヤニヤと笑った。
「ヘヘヘ。それからね。チット未練がましい長文句になって済まねえが、明日《あす》の朝は、せめてアッシにお線香でも上げるつもりで、出来るだけ朝寝しておくんなさいね。その轟九蔵の死骸がアンマリ早く見付かっちゃ困るんだ。銀行へ行ってお金を受取らなくちゃなりませんからね。いいかね。お頼ん申しますよ」
と云う中《うち》に姿は闇の中に消えて、声だけが朗らかに残った。
「……オットット……その窓は、そのまんま開け放しといた方がいいね。閉め切っとくと、オマハンの首に縄がかかるんだ。ハハハハハハ……」
やがてバラバラと雨の音……烈しい電光……。
あとを見送った呉羽はホッとため息した。そうしてニッコリとあざみ笑いをしいしい入口の扉《ドア》の把手《ハンドル》を、
前へ
次へ
全142ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング