指をかけながら近付き、やはり襦袢の袖でネジを捻じって窓を開ける。生蕃小僧は外に立ったまま依然として笑いながら声をひそめる。
「呉羽さん。相変らず綺麗ですなあ」
「……………………」
「私《あっし》ゃこれで貴女《あなた》の生命《いのち》がけのファンなんだよ。ドンナに危《ヤバ》い思いをしても、貴女《あなた》の芝居ばっかりは一度も欠かした事はないし、ブロマイドだって千枚以上|蓄《た》めているんだぜ。ハハ」
「……………………」
「しかし、心配しなくともいいんだよ。どうもしやせんから……あっしはねえ……」
「……………………」
「あっしはね。モウ御存じかも知れんが、貴女《あなた》や、その轟さんとは相当、古いおなじみなんだ。あっしを手先に使って、貴女の御両親を殺させた、その轟九蔵って悪党に古い怨恨《うらみ》があるんでね。タッタ今二千円をイタブッて出て行ったばっかりのところなんだが……どうも彼奴《あいつ》の呉れっぷりが美事なんでね。万一、警察《さつ》へ密告《さし》やしめえかと思って、途中の自働電話から彼奴《あいつ》を呼出して、もう一度用事が出来たからと云っておいて、引返してみたら、約束しておいた玄
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