……」
と云ううちに轟氏の背後から廻転椅子ごしに甘えかかるようにして頬をスリ寄せながら、帯の間から短剣を取出し、白い腕の蔭に隠して轟氏の胸に近付け、不意に両手で握って力任せにグッと刺す。
「ガッ……ナ何を……するッ……ガアッ……ムムムムム……」
その時に硝子《ガラス》窓の外から、最前の生蕃小僧が覆面の顔を覗かせる。電光イヨイヨ烈しくなる。
呉羽は虚空を掴んだままの轟氏の両手を避けながら、刺さっている刃物の十字形の※[#「※」は「木+霸」、第3水準1−86−28、218−7]《つか》を、鼻紙で用心深く拭い上げ、事務机の一番下の曳出《ひきだし》から生蕃小僧の脅迫状を探し出して、その中《うち》の一枚を元に返しながら懐中し、曳出《ひきだし》の表面に残っている指紋に呼吸《いき》を吐きかけ吐きかけ念入りに鼻紙で拭き取っている中《うち》に、窓|硝子《ガラス》をコツコツとたたく音を聞付け、ハッとして振返る。
窓の外の生蕃小僧、覆面を除き、白い歯を露《あら》わしつつ眼を細くして笑い、ここを開けよという風に手真似をする。呉羽はわななく手で曳出《ひきだ》しからピストルを取出し、襦袢の袖に包み、引金に
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