》の外に電光がしきりに閃めくと、窓の前の桜がスッカリ青葉になっているのが見える。その電光の前に覆面の生蕃小僧が現われコツコツと窓|硝子《ガラス》をたたく。
轟氏が立って行って開けてやると両足を棒のように巻いた生蕃小僧が、手袋を穿めた片手にピストルを持って這入って来る。
「ハハハ。よく約束を守ったな」
轟氏は用意の小切手を生蕃小僧に与える。
「この次は真昼間、玄関から堂々と這入って来い。夜は却《かえ》って迷惑だ」
「卑怯な事をするんじゃあんめえな」
「俺も轟九蔵だ。貴様はモウ暫く放し飼いにしとく必要があるんだ。今日は特別だが、これから毎月五百円|宛《ずつ》呉れてやる。些くとも二三年は大丈夫と思え」
「そうしていつになったら俺を片付けようというんだな」
「それはまだわからん。貴様の頭から石油をブッ掛けて、火を放《つ》けて、狂い死《じに》させる設備がチャントこの家の地下室に出来かけているんだ。俺の新発明の見世物だがね……グラン・ギニョールの上手を行く興行だ。その第一回の開業式に貴様を使ってやるつもりだが……」
「そいつは有り難い思い付きだね。しかし断っておくが、俺はいつでも真打《しんうち
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