ギューと啣《くわ》えたまま、船橋《ブリッジ》の欄干《てすり》に両|肱《ひじ》を凭《も》たせて、青い青い空の下を凝視しているんだ。その乾涸《ひから》びた、固定した視線の一直線上に、雪で真白になった晩香坡《バンクーバ》の桟橋がある。その向う一面に美しい燈火《ともしび》がズラリと並んでいようという……ところまで、やっと漕《こ》ぎ付けたんだがね。文字通りに……。
その桟橋の上に群がっている人間は、五日ほど遅れて着いたアラスカ丸をどうしたのかと気づかって、待ちかねていた連中なんだ。
「S・O・Sの野郎……骸骨《ほね》になってまで祟《たた》りやがったんだナ……」
船長《おやじ》が突然《だしぬけ》に振返って俺の顔を見た。白い義歯《いれば》を一ぱいに剥《む》き出して物凄《ものすご》く哄笑《こうしょう》したもんだ。
「アハハハハ。イヤ……面白い実験だったね。やっぱり理外の理って奴は、あるもんかなあ……タハハハ。ガハハハハハ……」
底本:「夢野久作全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年3月24日第1刷発行
※表題の「難船小僧」には、「S・O・S・BOY」とルビがふられています。
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