ら真二《まふた》つにスコップでたたき截《き》って、大きなバケツ二杯に詰めて出て来た。甲板に出て生命綱《いのちづな》に掴《つか》まり掴まり二つのバケツを海の上へ投げ出したが、その骨の一片が、波にぶつかって、又、兼の足元へ跳ね返って来た時、兼は真青になってその骨を引掴《ひっつか》むと危《あぶな》くツンノメリながら、
「南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》ッ……」
と遠くへ投げた。
それは兼の一生懸命の震え上った念仏らしかったが、とてもその恰好《かっこう》が滑稽《こっけい》だったので、見ていた俺はたった一人で腹を抱えさせられた。
アラスカ丸は、それから何の故障もなくスラスラと晩香坡《バンクーバ》へ着いた。
同じ波の上を、同じスピードで……馬鹿馬鹿しい話だが、まったくなんだ。
ところで話はこれからなんだ。
船長の横顔は見れば見るほど人間らしい感じがなくなって来るんだ。
骸骨《コツ》を渋紙で貼《は》り固めてワニスで塗り上げたような黒光りする凸額《おでこ》の奥に、硝子玉《ガラスだま》じみたギラギラする眼球《めだま》が二個《ふたつ》コビリ付いている。それがマドロス煙管《パイプ》を横一文字に
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