を沈めているんだそうですが、そんなに大きな船でなくとも、チョット乗った木葉船《こっぱぶね》でも間違いなく沈めるってんで、迚《とて》も凄《すご》がられているんです。早い話が房州|通《がよ》いの白鷺《しらさぎ》丸にチョイと乗組んだと思うと、直ぐに横須賀の水雷艇と衝突させる。毛唐《けとう》の重役の随伴《おとも》をしてブライトスター石油社《オイル》の超速|自働艇《モーターてい》に乗ると羽田沖で筋斗《とんぼ》返りを打たせるといった調子で、どこへ行っても泣きの涙の三りんぼう[#「三りんぼう」に傍点]扱いにされているうちに、運よく神戸でエムプレス・チャイナ号のAクラス・ボーイに紛れ込んで知らん顔をして上海まで来た。そいつを、どこかで伊那の顔を見識《みし》っていた毛唐の一等船客が発見して、あの小僧《ボーイ》と一所なら船を降りると云って騒ぎ出した。そこで今度は事務長が面喰《めんくら》って、早速小僧を逐出《おいだ》しにかかったが、小僧がなかなか降りようとしない。食堂の柱へ噛《かじ》り付いて泣き叫ぶ奴を、下級船員が寄ってたかって、拳銃《ピストル》や鉄棒《パイプ》を突付《つきつ》けてヘトヘトになるまで小突きま
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