も云わなかったよ」
「お前さん何にも船長《おやじ》に云わなかったんけエ」
「ウン。ちょっと云うには云ったがね。何も返事をしなかったんだ。船長《おやじ》は……」
「ヘエー。何も返事をしねえ」
「ウン。いつもああなんだからな船長《おやじ》は……」
「あの小僧を大事《でえじ》にしてくれとも何とも……親方に頼まなかったんけえ」
「馬鹿。頼まれたって引受けるもんか」
「エムプレス・チャイナへ面当《つらあ》てにした事でもねえんだな」
「むろんないよ。船長《おやじ》はあの小僧を、皆《みんな》が寄って集《たか》って怖がるのが、気に入らないらしいんだ」
「よしッ。わかったッ。そんで船長《おやじ》の了簡《りょうけん》がわかったッ」
「馬鹿な。何を云うんだ。船長《おやじ》だって何もお前達の気持を踏み付けて、あの小僧を可愛がろうってえ了簡じゃないよ。今にわかるよ」
「インニャ。何も船長《おやじ》を悪く云うんじゃねえんでがす。此船《うち》の船長《おやじ》と来た日にゃ海の上の神様なんで、万に一つも間違いがあろうたあ思わねえんでがすが、癪《しゃく》に障《さわ》るのはあの小僧でがす。……手前の不吉《いや》な前科《こう
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