のだ。飲まないと頭が変テコになって仕事が続かないので、止むを得ない義金募集なのだそうだ。
 ある時、松石君、大枚三円なにがしを収穫したので、帰り途《みち》のウドン屋に寄って大いに飲んだ。傍《そば》で飲んでいたサラリーマン風の男と非常な親友になって、スッカリ肝胆照してしまった。将来、死生を共にしようと言う処まで高潮したので、とにかく今夜は俺の家に来いと言う事になって、グデングデンになっている奴を引っぱって帰ると、出迎えた細君に残りのバラ銭を一掴み投げ与えた。大至急に酒を命じて二階に上った。
 それから二階で又盛んに飲んで、歌って、死生の契りを固めているうちに、とうとう飲み潰れて二人ともグウグウ寝てしまった。
 あくる朝松石君が眼を醒ますと、傍に知らない男が寝ている。ハテ、何処の宿屋に泊ったのか知らん……と思って天井や床の間を見廻すと、たしかに自分の家である。
 松石君は仰天して二階から駈け降りた。台所で赤ん坊を背負って茶漬を喰っている細君を捕えて詰問した。
「二階の男はアリャ何だい」
 細君も仰天した。
「……まあ……アナタ御存じないの」
「知るもんか。あんな奴……」
「あら嫌だ。昨夜《
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