ハハハハ。そんなに沢山飲みもせぬのにヒドク酔っ払ったな。よしよし。そのまんま寝ていろ。コレ、豚吉、心配するな。今云ったのはおどかしだ。お前たちを殺そうなぞと俺が思うものか。出来ないことを頼むから、ちょっと胡魔化《ごまか》して踊らせてやったのだ」
「エッ。それじゃ今のは冗談ですか」
「そうだとも」
「ああ、安心した。それじゃもっとお酒を飲みます」
「サア飲め、沢山ある。おれも飲もう」
 と、二人で樽を抱えてグーグー飲んでいるうちに、いつの間にか酔い倒れてしまいました。
 やがて夜が更けて、家中が静かになって鼾《いびき》の声ばかりきこえるようになりますと、表の方へゾロゾロゾロゾロと沢山の靴の音がきこえて来ましたが、その時ふッと眼をさました無茶先生が、何事かと思って雨戸のすき間からのぞいて見ますと、それは隣の町から無茶先生たちを捕えに来た兵隊の靴の音で、見る見るうちに三人の泊っている宿屋は兵隊に取り巻かれてしまいました。しかもその兵隊達はみんな、無茶先生の香水を嗅がせられて嚔《くしゃみ》の出ないように、鼻の上から白い布片《ぬのきれ》をかぶせて用心をしています。
 それを見ると無茶先生は可笑《
前へ 次へ
全118ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング