側から横ッ面をポカーンとなぐりつけますと、眼をまわしていたお神さんはパッと眼をさまし、そこいらをキョロキョロ見まわしておりましたが、
「アラ。私の頭の痛いのが治ったよ。まあ、何という不思議なことでしょう。ほんとに無茶先生、有り難う御座いました」
と大喜びでお礼を云って降りて行きました。
この様子を見ていた宿屋の主人は、もう無茶先生のエライのに肝を潰してしまいました。
「ああ、ビックリしました。先生は何というエライお方でしょう。それではお序《ついで》に私の息子の病気も治していただけますまいか」
「フーン。貴様の息子の病気は何だ」
「ヘエ。私の息子の病気は、いつもお腹が痛いお腹が痛いと云うて学校を休むのです。どんなお医者に見せても治りません」
「そうか。それはわけはない。おれが見なくとも病気はなおる」
「ヘエ。どうすればなおります」
「朝の御飯を喰べさせるな」
「そうすればなおりますか」
「そればかりではいけない。昼のお弁当を息子に持たせずに、学校の先生の処へお使いに持たしてやれ。どんなことがあっても朝御飯と昼御飯をうちで喰べさせるな。そうすればお腹が空《す》くからイヤでも学校に行くよ
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