したが、間もなく手拭で鉢巻きをしたお神さんをおぶっこして上って来て、無茶先生の前にソッと卸しました。そのあとから上って来たさっきの番頭は、お酒を一斗樽ごと抱えて来て無茶先生の前に置きました。
 無茶先生はその樽の栓を取ると、両手に抱えてグーグーグーグー一息に呑み初めましたが、やがて飲んでしまいますと、
「アー。久し振り樽ごとお酒を飲んで美味《うま》かった。ドレ、お神さん。顔を見せろ」
 とお神さんの顎に手をかけて顔をジッと見ておりましたが、忽ち割れ鐘のような声で笑い出しました。
「アアアアアア。なるほど、頭が痛そうな顔をしているな。コレ、お神さん。お前はなあ、あんまり主人に我儘《わがまま》を云ったり、番頭や丁稚《でっち》を叱りつけたりするから頭が痛いんだぞ。しかし、その病気はすぐなおるから心配するな。これから頭が痛い時はすぐに、主人にこうしてもらえ」
 と云ううちに、右の手で岩のような拳固《げんこ》を作って、お神さんの右の横面《よこつら》をグワーンとなぐりつけました。お神さんは、
「ギャッ」
 というなり眼をまわして、左の方へたおれかかりました。そこで無茶先生は今度は左の拳骨を固めて左
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