さんや兵隊さんがそれを聞いて、捕まえに来たらどうします」
 と叱りました。けれども豚吉は平気なもので、なおの事大きな声を出して云いました。
「ナアニ。大丈夫だ。その時は又無茶先生に追い払ってもらうのだ」
 と、つい本当のことを云いましたので、無茶先生もヒョロ子も腹を抱えて笑いました。
 けれども宿屋の主人は何も知りませんので、いよいよ感心して驚いてしまいました。
「ヘエー。それはえらいお方ばかりですな。それじゃ無茶先生は当り前の病気ぐらいは訳なくお治し下さるで御座いましょうな」
 と尋ねました。
 無茶先生はやはり真裸《まっぱだか》のまんま、ガブガブお酒を飲みながら大威張りで答えました。
「おお。どんな病気でも治してやる。その代り一人治せばお酒を一斗|宛《ずつ》飲むぞ」
「それじゃお酒を一斗差し上げますから、私の妻《かない》の病気を治して下さいませぬか」
「どんな病気だ」
「何だかいつも頭が痛いと申しまして、御飯を食べる時のほか寝てばかりおりますが、どんなお医者に見せましても治りませぬ」
「よし、すぐに連れて来い」
「かしこまりました」
 と、亭主は無茶先生たちの居る二階を降りてゆきま
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