るのは当り前の事だ。それを珍らしがって見に来るなんて失敬な奴だ。又、この宿屋の奴もそうだ。おれたちのどこがわるいから泊めてくれないのだ。おれたちはみんな人間だぞ。人間が宿屋に泊めてくれというのが何がわるいのだ。愚図愚図云うと、貴様共をみんな盲《めくら》にして終うぞ」
 と云ううちに、鞄から小さな粉薬の瓶を出しました。
 それを見ると豚吉は、
「おもしろいおもしろい」
 と手を拍《う》って喜びましたが、ヒョロ子は慌ててそれを止めまして、
「まあ、先生。そんな可愛そうなことをなさいますな。泊めてくれなければ、私たちは山の中に寝てもよろしゅう御座いますから」
 と云いました。
 そうすると無茶先生は、
「よし。それではやめてやろう。その代りおれは泊めてくれるまでここを動かない」
 と云ううちにその粉薬を仕舞って、その宿屋の上り口のところにドッカリと座りますと、今度は鞄からパイプを出して、黒い色の煙草を詰めて、火をつけてスパリスパリと吸い初めました。
 店の番頭は困ってしまいました。
「どうもそんなことをなすっては困ります。こんなに店の前に大勢人が居ては、ほかのお客さんが泊りに来られませんから
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