早く出て行って下さい……」
と云いかけましたが、ヒョイと妙なことに気が付きました。
座ったままパイプを啣《くわ》えて、スパリスパリと煙草を吸っている無茶先生の顔がだんだん黄色くなって行きます。オヤオヤと思っているうちにその顔色が赤くなって、それから紫色になって、見る見るうちに真っ黒になってしまいました。
番頭は肝を潰してしまいましたが、その時に不図気が付きますと、黒くなったのは無茶先生ばかりではありません。側に居た豚吉やヒョロ子はもとより、まわりを取り巻いている見物人も、無茶先生の煙草の煙に当ったものはみんな、顔色が黄色から赤へ、赤から紫へ、紫から黒へとなりかけています。
番頭はふるえ上って奥へ飛んで来て、御主人の前まで来ると腰を抜かしました。
「御主人様。大変です大変です」
と云いますと、主人と一緒に御飯をたべていたおかみさんも、子供も小僧さんも、みんなワッとお茶碗を投出して逃げてゆきそうにしました。
それを主人は止めながら、
「大変とは何です。あなたは一体どなたです」
と云いました。番頭は不思議そうに眼をキョロキョロさせながら答えました。
「私は番頭です」
「何、番頭
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