にゆきました。
けれども、無茶先生や豚吉やヒョロ子は鼻の穴に綿をつめておりますから、香水の香《にお》いもわからなければ嚔《くしゃみ》も出しません。
「サア、この間に逃げるんだ」
と無茶先生は云いながら、横にあった金槌を取り上げて、横に寝ている馬の頭をコツンと一つなぐり付けますと、馬はパッと生き上りました。それを表に引き出して、細引で口縄をつけると、無茶先生が裸体《はだか》のまま鞄を持って一番先に乗ります。そのあとからヒョロ子が豚吉を背負って馬の背中に這い上りますと、無茶先生が手綱を取って、
「ハイヨーッ」
と云うと、広い往来を一目散に逃げ出した。
その時、うしろの方から勇ましいラッパの音がきこえて、兵隊さんが大勢、無茶先生の家《うち》へ押寄せましたが、見ると無茶先生と豚吉とヒョロ子は馬に乗ってドンドン逃げて行く様子です。
「ソレッ。魔法使いが逃げるぞ。打て打て」
と云ううちに、兵隊さんは横に並んでドンドン鉄砲を打出しましたが、ちょうどその時、兵隊さんはみんな無茶先生の香水のにおいを嗅ぎましたので、みんな一時にクシャミを初めて鉄砲を狙うことが出来ません。撃ってもクシャミをしなが
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