茶先生の家のまわりを取り巻いている人が、みんなひっくり返って、上を向いたり下を向いたりして苦しんでいる有様しか見えませんから、驚きまして、
「コレは大変だ。あの無茶先生は大変な魔法使いに違いない。まごまごしているとみんな殺されるかも知れぬ」
 というので、ドンドン逃げ出してゆきました。
 大勢の人が無茶先生の香水に恐れて逃げて行きました。おかげでうしろの方に居た巡査さんや消防は、やっと前の方に出て来ることができましたが、その巡査さんや消防たちも無茶先生の香水のにおいを嗅ぐと、やっぱり同じこと一時にクシャミを初めまして、消防は鳶口《とびぐち》を持ったまま、又巡査さんはサーベルを握ったまま、あっちでもこっちでも、
「ハクションハクション」
「ヘキシンヘキシン」
「フクシンフクシン」
「ファークショファークショ」
「ハアーッホンハアーッホン」
 と云ううちに、みんな引っくり返ってしまいました。
 この様子を見た大勢の人々はいよいよ驚いてしまいました。
「これは大変だ。巡査さんや消防までも無茶先生に殺されそうだ。早く兵隊さんを呼んで来て、無茶先生を殺してもらおう」
 と、大急ぎで兵隊さんを呼び
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