は渡らせない。喧嘩するならお出《い》で。私が相手になってやる」
「何を、この糞婆ア」
 と云ううちに、豚吉は真赤に怒って、イキナリお婆さんに掴みかかって行きました。
 豚吉は、何をこの梅干|婆《ばば》と、馬鹿にしてつかみかかって行きました。ところがその強いこと、橋番のお婆さんはイキナリ豚吉を捕まえますと、手鞠《てまり》のように河の中へ投げ込んでしまいました。
 これを見ていたヒョロ子は驚きました。
「あれ、あぶない」
 と云ううちに、自分も河の中へ飛び込んで、
「助けてくれ助けてくれ」
 と叫びながら流れてゆく豚吉のあとから、長い足でザブザブと河の水を蹴立てて追っかけましたが、間もなく豚吉を捕まえまして、片手に提《さ》げて河を渡ると、今度は橋の向う側に上って来ました。
 これを見ていたお婆さんはカンカンに憤《おこ》って、橋を渡って追っかけて来ました。そうしてヒョロ子の腕を掴みながら、
「お前達は泥棒だ。橋の渡り賃を払わずにこの河を渡った者は懲役《ちょうえき》に行くのだ。サア来い。お役所に連れてゆくから」
 と怒鳴りました。
 豚吉はふるえ上がってしまいました。
 けれどもヒョロ子は驚き
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