は飛んでもない奴だ。貴様はだれに云いつかってこの橋の渡り賃を取るのだ」
「生意気なことをお云いでない。あの向うの橋の渡り口を御覧……あすこにお役所があるだろう。あのお役所の云い付けでここに番をしているのが、お前さんたちはわからないか。愚図愚図云うとお前さんたちの首に縄をつけて、あすこのお役人の所へ連れて行つて獄屋に打《ぶ》ち込んでしまうが、いいかい」
と大変な勢いです。豚吉は又青くなってしまいました。
さっきからこの様子を見ていたヒョロ子は、この時そっと豚吉の袖を引きまして、こう云いました。
「およしなさい。こんなお婆さんと喧嘩をするのは……。それよりもこの河は浅そうですから、私があなたを背負って渡りましょう」
と云いました。
豚吉はこう云われて河の方を見ましたが、成る程、河の水はザアザアと浅そうに見えて流れております。けれどもやっぱり何だか恐ろしそうですから、又元気を出して婆さんに云いました。
「いけない。いくらお役人に頼まれていても、一人の人間から二人前のお金を取っていいことはあるまい。何でも一銭でこの橋を渡らせろ」
「いけない。そんなことを云うなら、もう百円出してもこの橋
前へ
次へ
全118ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング