き、蝶が舞い、雲雀《ひばり》が舞っています。あんまりいい景色ですから、豚吉はぼんやり立って見ていますと、すぐ眼の前の古井戸の口で遊んでいた一人の女の児《こ》が、どうしたはずみか井戸の中へ落ちました。
豚吉は驚いて駈け寄りますと、暗い底の方から女の子の泣き声がきこえます。けれども、そこいらに梯子《はしご》もなければ綱もありません。
豚吉は困りましたが、放っておけば女の児が死にそうですから、すぐに上衣を脱いで、ズボンを脱いで、シャツ一枚になって井戸の中へ真逆様《まっさかさま》に飛び込みました。
ところが身体《からだ》が大きいものですから、底へ達《とど》きません。それどころか、ほんの入り口の処へ身体《からだ》が一パイに引っかかって、動くこともどうすることも出来なくなりました。
豚吉は驚きました。
「助けてくれ助けてくれ」
と一生懸命で怒鳴りましたが、身体《からだ》が井戸の口に塞《ふさ》がっているので外へはきこえず、おまけに下では女の児が泣き立てますので、その八釜しいこと、耳も潰れるばかりです。しまいには豚吉も情なくなって、オイオイ泣き出しました。下からは女の児が泣きます。けれども誰
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