かなか済みません。やっぱり一粒か二粒|宛《ずつ》たべては、お汁をすこしずつ嘗《なめ》るばかりです。豚吉は初めのうちは我慢してジッと待っておりましたけれども、とうとう我慢しきれなくて冷かし初めました。
「お前はまあ何て御飯のたべ方をするんだ。そんなたべ方をしていると、今にお正午《ひる》になって、昼の御飯と一所になってしまうぞ」
これをきいたヒョロ子は、真赤になって豚吉を睨みました。
「黙っていらっしゃい。あなたのように牛か馬見たようなたべ方をするもんじゃありません。それに私は身体《からだ》が細長いから、御飯の通る道も当り前の人より細長いのです。あなたみたいにドッサリ口に入れたら、すぐに詰まって死んでしまうのです。私が死ぬのが厭《いや》なら温柔《おとな》しく待っていらっしゃい」
と、なかなか云う事をききません。豚吉は大きなあくびをして立ち上りました。
「ヤレヤレ大変なお嬢さんだ。待っているうちに、又お腹がすいて喰べたくなりそうだ。それじゃおれは外を散歩して来るから、ごゆっくり召し上れ」
と云って、裏の方へ出かけました。
豚吉は裏の方へ来て見ますと、ちょうど春で、野にはいろんな花が咲
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