にもきこえませんので、助けに来てくれる人がありません。
その中《うち》に豚吉は声が涸《かれ》てしまいました。
ところへ、井戸へ落ちた児のお母さんが、子供はどこに行ったかしらんと探しながらやって来ましたが、見ると、大きな短い足が二本、井戸の中からニューと突出てバタバタ動いています。驚いて走り寄って見ますと、大きな身体《からだ》が井戸の口一パイになっていて、下の方から自分の子供の泣き声がきこえます。
お母さんは肝を潰すまいことか。
「まあ、妾《わたし》の娘はどうしてこんなに急に大きくなったんだろう。何だか男のような恰好《かっこう》だけれど、泣いてる声をきくとうちの子のようだ。何にしても助けて見なければわからない」
と云いながら、急いでその足を捕えて引っぱって見ましたが、どうしてなかなか抜けそうにもありません。
お母さんはいよいよ慌てて村の方へ駈け出しました。
「助けて下さい。うちの娘が井戸の口一パイに引っかかって泣いています。早く誰か来て助けて下さい」
と泣きながらお母さんが叫びますと、村の人々はみんなビックリしました。
「それは珍らしい話だ。まさか井戸の水を飲んでそんなにふく
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