かと思うと可笑しい。

     押収フイルムの公開

 震災前、このようなフイルムに対する当局の取締がちょっと厳重になった事がある。但《ただし》、ことがある[#「ことがある」に傍点]だけで、結局、製造の手段が以前よりも巧妙になっただけに止まった。
 現在東京で流行しているこの種のフイルムの中には、舶来物もあるにはあるが僅《わずか》らしい。十中八九和製と見ていい程に製造が盛である。ほかのものと違って密輸入が六ヶしいというような関係があるのかも知れぬ。
 警視庁にはこの種のフイルムの押収したのを沢山溜めている。それを昨年の夏、或る特別な人々に限って映じて見せたそうである。特別な人とは映画関係業者、教育関係者、映画関係係官の中から撰まれた少数の人々で、参考のためとも、見せしめのためとも、又は御愛嬌とも考えられた。
 場所は警視庁の検閲室で、次から次へ映写される場面はいずれも型の如きものであった。何等芸術的の価値あるものでなかったが、官吏も商売人も昂奮の極情欲なぞは少しも起らなかった。只悽愴たる感じにのみ打たれた。
 済んで室を出てから笑う者などは一人も無かった。血色のある者も一人も無かった
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