天井を打ち抜いて、小さな撮影所《セット》を設ける。これに強力な電気を盗用して、その素晴らしく儲かるフイルムを作る。
そのフイルムとは秘密映画の事である。
映画室兼用の寝室
秘密フイルムの場面の大抵は「間男」で、怪しい役者と女優? が演ずる。実にタワイもないものであるが、出来上ると「家庭教育フイルム」とか何とか真面目な名前をつけてブローカーの手に渡す。もしくは、自分の配下か又は自身に「○○活動写真会」なぞいうものを組織して、映写して廻らせる。
お花客《とくい》は常に上流の家庭である。だから料金はいつも高価である。外国にあるという、興行的な料金を取るものがどこかで秘密にやっていはしまいかと注意して見たが、これは気が付かなかった。当局でも当業者も、無論そんなものはまだあるまいと云った。
結局、日本では上流の家庭ばかりという事になる。
「近頃の富豪の家には映画室を兼ねた寝室だの書斎だのがありますよ。外国では普通だそうですが……」
と或るフイルム仲買人は笑って云った。(後に出る変態性欲用具の項参照)
こうした上流の人士が民心の頽廃を嘆いて、吾が児の活動見物を差し止めるの
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