のように露骨でないから、なかなか当りが付きにくい。又、相手が女で極めてデリケートな手腕を要するので、明治生れの、九州育ちの、しかも長男が七つにもなる記者にとっては不向きであった。
その代り記者はあまり骨を折らずに材料を得た。つまり、記者の狙ったところは全部的を外れていた代りに、意外な方面から意外な暗示を得た。又は、思いもかけぬ材料が思わぬところで転がり込んでいるのを、あとから気が付いたなぞいう次第で、どちらかと云えば極まりの悪い方である。
しかし、負け惜みにも何も、その他に材料が無いのだから仕方がない。記者が面喰らいながら材料を得て行くところが、却て読者の興味を引くかも知れぬ。
芸道の先生お弱りの事
或る芸事の先生の処で、昨年の夏頃からお嬢さん方のお稽古がパッタリ絶えた。昔の通りにあるにはあるが、皆出稽古で、稽古場には二三人しか居ない。
その先生は変に思って、内々理由を調べて見ると、その稽古場がある付近が不良少年の本場だからという事であった。
先生は弱った。
折角焼け残った稽古場をほかへ移すわけにも行かず、思案に暮れていると、その中《うち》に又、その界隈が不良少年の本場でも何でもない、そうしてお嬢さん方のお稽古の減った原因は、その習いに来ている少女の中に有名な不良少女が二人いる事を、お嬢さん方の家庭で知って警戒したためだとわかった。
先生は、「早くそう云ってくれればいいに」と、上《うえ》つ方《がた》のお上品さんを怨んだ……しかし、とにもかくにもいろいろと苦心して、その二人の少女を遠ざけた。それから各家庭を訪問して、不注意を詫びた。おかげで今では昔にまさる繁昌をしているという。
その令嬢たちの中の一人の保護者に、独身の女流教育家で、新聞や雑誌にチョイチョイ名を出す人がある。四十前後の、極《ごく》率直な、アッサリした人で、今の話をしてくれた揚句《あげく》、不良少女の男性誘惑法を記者に教えてくれたのには驚いた。
「私はまだほかに二三人の女生徒の親代りになっていますが、方々でいろんな事を聴きますよ。あなたもよくおぼえていらっしゃいよ。引っかからないように……」
「冗談じゃありません……」
少年誘惑第一日
東京の不良少女は、まだ少年のそれのように深刻な悪事を働かない。ただ男学生を誘惑して享楽する位が関の山らしい。それ以外の仕事をするのは大抵単独の不良少女で、団体的の背景を持たぬのが多いと思う。
若い男性を誘惑する方法も、少年のソレのように念の入った研究や調査なぞしない。或る男学生を一人の不良女学生が狙うのを、ほかの団友が賛助する位の事で、それを団体的行動と心得ている位の事らしい。
しかし、彼女たちが単身少年に接近して誘惑して行く手段は、男のそれと負けない位大胆である。
たとえば電車に乗って、星をつけた少年の前に立つところは、不良少年式とすこしもかわらない。
ところで、チラリと相手の顔へラジオを放射する。先方が注意しない時は、足を踏むか何かしておいて、思い切り恥ずかし気にあやまる。おまけを付けて、二三度も気の毒そうなシナを見せる。引続きラジオを放射する。その放射の反応具合で相手の真実程度が大抵わかる。
第一日はそれ位にして、別れがけに特別な振幅を含んだお辞儀をする。しかも成るべく気品を見せながら、依々《いい》たり恋々たる風情で袂を別《わか》つ。
しかしまだ呆れてはいけない。
少年誘惑第二日
第二日も同じ頃、同じ電車に乗って、同じ相手の前に立つ。但、今度は多少心安くなった風で、程よく気軽に振舞う。ニッコリ位する……。
……応ずる…………。
これを三日か四日位まで続けて、相手の学生が何となく自分の乗っている事を期待している風情に見えて来たら、ここで一日二日スッポカシを喰わせる。
これを「手紙デー」、又は「デー」という。
相手の少年が、「今日はあの女学生が乗らなかったな」と思っている矢先へ手紙が届く。
「女の癖にぶしつけなと思召《おぼしめ》すかも知れませんが、ほかにこの苦しみを洩らす道が一つもありませんから……」
「只愛する……というお言葉だけで妾は……」
「こんな事を申し上げましたからには、妾はもうあなたにお眼にかかられませぬ。お眼にかかれば、この悩みがいよいよ堪えられなくなるばかりで御座いますから……ああ神様……」
とか何とか書いてある。
本当にする少年は本当にする。そうしていろいろ悩み始める。
こうしておいて、早いので二三日、長いので一二週間の後、如何にも偶然のように電車の中で逢う。但、少年の学校の帰りがけでなければならぬ。
この時が成功不成功の分れ目だそうで、又一番|六ヶ《むずか》しい技巧を要するのだそうな。
……真赤になって、うつむいて、ハンケ
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