にして、如何なる場合に善良なる子女に打ち込まれて行くかという事を、口にしたり、耳にしたりする事を恥ずるからである、と云っていい状況である。
現在の東京では、そんなウッカリした態度では、不良少年少女に対する取締が出来ない事が各方面に証拠立てられている。
しかも、この傾向は現に西部日本にもドシドシ浸潤しつつある事を、記者は充分に認め得るのである。関門連絡船に二三回乗って、若い男女の東へ行く風俗と、西へ行く風俗を注意しただけでもよくわかる。福岡あたりの活動のハネ時に半時間程立って見ても一目瞭然である。
そればかりでない。東京人の堕落はかくして日本人の堕落となるであろう。これに対して如何に戒心し、警備すべきかは、単に本紙愛読者のみの責任に止まらぬであろう。
更に、このような事を耳にしたり、研究したりする事を卑しめるために、このような事実を知らずして警戒の方法を誤り、又は無関心にしておいて、他日、東京人の堕落の影響が新聞紙上に事実として現われた時、初めて驚く事が賢明であるかないかは議論の外であろう。
記者は深く謝する。記者が、冒頭、この事をお断りしておかなかったために、この記事が或る誤解を惹起したのみならず、読者諸君に対する非礼を意味することになった事を、ここに更めてお詫びをする。
尚、この稿を起した根本の目的は末尾に述べるつもりである。この稿を読まれる方々はその局部――のみを見ず、全体を一貫した趣旨をそこで看取して頂きたい事を併せて希望しておく。
家庭荒しの団体
浅草に限らず、不良少年は団体を組んでいるのがいくつもある。「三人行けば必ず師あり」で、彼等が寄り合うと、その中にはきっと得手《えて》が出て来る。顔だけでも正直そうなの、女の好きそうなの、睨みの利きそうなのと、いろいろ特徴が違うところから、協同して仕事をした方が便利である。首領も無論、その中から出て来る。
昔は小桜団とか二組とか大きな団体があって、他の団体と争ったり、又は単独行動に出る奴を迫害したりしたが、これは大抵非文化的の不良であった。文化的の方はコソ泥あしらいをされて、ドチラかと云えば軽蔑されていた。
ところが、彼《か》の大地震後は反対に文化的の方が勢を得た。同時に、非常に多数の不良が出たので混沌状態を呈した。すくなくとも昨年の秋まではそうであった。
その中《うち》にポツポツと固まったのがあって、記者が聞いたのは下谷に一つ、麹町から牛込へかけて二つ、青山に一つある。大抵一組十人位から三十人位まで居るという。浅草にはいくつもあるが、皆小さいように思う。その代り亡命印度人の配下になっているようなのがある。
こんなのの名前は、始終取りかえるのでわからない。仕事は、浅草のを除いていずれも家庭荒《はとがりあら》し(鳩狩?)が主で、しかも、ほかの脅迫《ぱくり》や誘拐《かたり》見たように少数の黒人《くろうと》の腕揃いではない。団結も固くなければ、仕事もチャチなのがあるという。つまり、まだ発達向上の余地がある訳である。
こんなことを書いているうちにも、東京では有名な不良少年少女団が二つ三つ挙げられた。足もとの明るいうちに切り上げたい。
しかし、それでもまだ、一般家庭の参考になる事や、当局にも知られていまいと思う事がないでもないから、そんなのを一まとめにして次に述べる。
少女誘惑ラムプ団
麹町に二つあった団体の中《うち》の一つは、一昨年の暮あたりまでラムプ団と云っていた。今は何と云うか知らぬが、本拠は牛込か四谷辺に移動しているらしい。
震災当時、四五人の不良が集まって、どこからか拾って来たラムプを取り捲きながら仕事の相談をしたのが始まりで、追々《おいおい》人数が殖えて来ると、そのラムプの形を知っているものは団員に相違ないと認める組織になっていたという。今では、そのラムプは勿論、団体のあるなしすらわからなくなっているが、仕事はチャンとしているらしい。日比谷と九段はその二大中心で、青山方面にも手を延ばしているという。
仕事というのは以前は誘拐であったが、この節ではやりにくくなった上に、足が付き易い。又、万一挙げられた場合に刑罰も重いので、もっと文化的な、安全な方法を執るようになった。
先ず良家の令嬢を誘惑して関係を結ぶ。それからその両親や監督者に手紙を出して、手切金をせがむ。呉《く》れなければその令嬢の嫁ぐ先々に或る手段を施して呪う、場合に依っては死ぬ迄結婚させぬ――なぞいう威し文句を送る。「警察に訴えてその相手を捕えても、あとに団員が残って仕事はする。あなたのお家の名誉と金の引換えだがどうだ」なぞと来ると、不良少年の慣用の文句を知らない親たちは本当にしてふるえ上る。
「そんなヘマな相手には引っかかりませんよ」
とか何とか威張る新
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