》てこの花時を区切って全盛時代を見せるかも知れぬ。又は第二期の深刻味をあらわし始めるかも知れぬ。
 いずれにしてもこの春が問題である。この記事がそうした人気や風俗の移りかわりを見分ける標準となったら幸である。
 更に地方の特色の美しさや尊さを忘れて、東京を神様のように思っている人々のために、又はその子弟を東京に遣っている人々のために参考となったら、記者の苦心はどれ位酬いられるであろうか。

     警視庁の映画検閲官|曰《いわ》く

 東京人の堕落時代を描き出す前に、取り敢ず読者の記憶を呼び起しておかねばならぬ事がある。
 昨冬二十六日付の九州日報夕刊に大略左のような記事が載っていた。

       ×         ×         ×

 大正十三年の一月から十一月まで警視庁で検閲した映画の数が一万八千巻、千六百|呎《フィート》、切った長さが約六万|呎《フィート》……以て如何に「活動」が盛《さかん》であるかがわかる。
 次に切ったフイルムを国別にして見ると、
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      検閲巻数        同上呎数       切除呎数
日本物    七、九五四    六、九一七、三二一   三六、四三四
米国物    七、六九六    六、八一〇、五六三   一九、三三六
欧州物      九一三      八三二、七四八    三、七〇〇
合計    一六、五六三   一四、五六〇、六三二   五九、四七〇
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 となる。即ち割合から見て日本映画は欧州物よりも二三割方多く切られているし、米国物に比べると殆ど二倍近く切られている。
 外国映画が教育に有害だと今頃云っている人は、本当に頭の古い人である。
 尚、右に就いて警視庁の興行係長長田島太郎氏は左のように説明を付け加えている。
「由来、大災害の後には人心が弛緩して、民衆の実生活も余程淫蕩に流れる。安政の大地震や明暦の大火の後にも、放逸な仮宅《かりや》生活や、諸職人の金廻《かねまわ》りのよかった関係から、淫風蕩々たるものがあったことは史実の証明するところである。昨今、淫蕩場面の映画が歓迎されるのも、昨秋の大震災の民心に影響した結果であろうと思われる」云々。

     映画製作業者曰く

 東京郊外の或る大撮影所長は云う。
「活動の筋書欠乏は久しい話ですが、集まって来
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