探偵小説漫想
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)肱《ひじ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから横組み]
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何か書かなければならない。二三枚でいいという。
机に肱《ひじ》を突いて暁の煙を輪に吹いてみる。
◇
お前が書いているのは探偵小説じゃないという人が居る。腹が立つような立たないような妙な気持になる。
しかし、あやまるのは早計だと思う。うっかりあやまったら書く事がなくなる。折角水面に顔を出したところを又突き沈められる義務はない。
云う奴は自分一人が舟に乗って、ほかの奴を乗せまいとする奴だろう。舟になんか乗せてもらわなくともいい。自分一人で泳ぐばかりだ。
◇
私は本格探偵小説が書けない。書いてもみたが皆イケナイ。本格物を書く事の味気なさが身に泌みる。
その癖読むのは本格物、もしくは本格味の深いものが好きである。
だから読者として本格物に対する註文は相当持っている。むろん無理な註文も多いに違いないが、それでも自分の註文に嵌《は》まった本格探偵小説を憧憬《あこが》
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