物の見事に行詰まっている。孤城落日である。
 仏も仏教の教義が、日本人の頭脳によって急速に分析されて、あまりにも種々の宗派を分岐し、あまりにも方便化され、単純化された結果、遂に今日の如き堕落、行詰まり時代を招致したように……等々々……。

 以上のような諸現象を毎日毎日目に見、耳に聴いて来た吾々探偵小説ファンは、思わずタメ息せざるを得ない。探偵、猟奇小説界に於ける一切の新人も、思わず識《し》らずタメ息し、萎縮し、躊躇し死因化しないではいられないであろう。しかし筆者は格別驚きもせず、心配もしていない。それは中学程度の教養しか持たないせいかも知れない。又は中央文壇の荘厳から遠く離れた山の中に退化生活を営んでいるせいかも知れない。のみならず井底の蛙かもしくは盲《めくら》、蛇に怖《お》じずの類であろう。こうした大勢に対して死に物狂いの反撃をしてみたくなった。声ばかりでもいい、「探偵小説は行詰まっていない」と絶叫してみたくなった。
 新しい人々の自由奔放な大暴れが期待したくなった。笑われてもいい。憎まれても構わない。それが探偵小説界のためだと思い込んでしまった。筆者は敢えて云う。

 所謂、本格
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