……買わねえか』と云う中《うち》に通りすがりの御客を、お捕まえになるでしょう。あんな怖い事は御座いませんでしたわ。『何をパチクリしていやがるんだ篦棒《べらぼう》めえ。マックロケのケエの手習草紙みたいな花魁《おいらん》の操《みさお》に、勿体ない親御様の金を十円も出しやがる位なら、タッタ二銭でこの孝行娘の辻占を買って行きやがれ。ドッチが無垢《むく》の真物《ほんもの》だか考えてみろ。ナニイ、五十銭玉ばっかりだア。嘘を吐《つ》け。蟇口《がまぐち》を見せろ。ホオラ一円札があるじゃないか。コイツを一枚よこせ。釣銭なんかないよ。お釣が欲しかったら明日《あした》の朝、絹夜具の中で花魁から捻《ね》じ上げろ。ナニ、高価《たけ》え?……シミッタレた文句を云うな。勿体なくも河内瓢箪山稲荷の辻占だ。罰が当るぞ畜生。運気、縁談、待人、家相、病人、旅立の吉凶《よしあし》、花魁の本心までタッタ一円でピッタリと当る。田舎一流|拳骨《げんこつ》の辻占だ。親の罰より覿面《てきめん》にアタル……この通り……ポコーン……』とか何とか仰言って、買ってくれた人の横ッ面《つら》を……」
「ハハハ。そんな事があったっけなあ。酔払ってい
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