ョリになっちゃった。本気にするぜオイ……」
「嫌《いや》で御座いますよ先生。私がまだ十一か十二の時に、両親の病気を介抱しいしいコチラの遊廓で辻占を売っておりました時分に……」
「アッ。君はあの時の孝行娘さんかえ。これあ驚いた。そういえばどこやらに面影が残っている。非道《ひど》いお婆さんになったもんだね」
「まあ。お口の悪い……でも先生はあの時からチットも御容子《おようす》がお変りになりませんわね。昔の通りのお姿……」
「アハハ。貴様の方がヨッポド口が悪いぞ。変りたくとも変れねえんだ」
「アラ。そんな事じゃ御座いませんわ」
「おんなじ事じゃないか」
「……でも、そのお姿を見ますとあの時の事を思い出しますわ。『ウーム。貴様が新聞に出ていた孝行娘か。こっちへ来い。美味《うま》いものを喰わせてやる』と仰言《おっしゃ》って、お煙草盆に結《ゆ》った私の手をお引きになって、屋台のオデン屋へ連れてってお酌をおさせになるでしょう。それから私の手をシッカリ掴んで廓の中をよろけ廻りながら御自分で大きな声をお出しになって『河内《かわち》イ――瓢箪山《ひょうたんやま》稲荷《いなり》の辻占ア――ッと……ヤイ。野郎
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