ってしまった。
部屋の中は天井から床まで赤ずくめで、赤漆塗《あかうるしぬり》の卓が四ツ五ツ排列して在る間に、赤唐紙張《あかとうしばり》の屏風《びょうぶ》が仕切ってある。その片隅の大きな瓦斯暖炉の前の空隙《すきま》に、籐《とう》の安楽椅子が五ツ六ツ並んで、五月だというのに瓦斯の火がドロドロと燃えている。
四壁に沁み込んだ脂肪と薬味の異臭が引切りなしに食慾をそそる。
やっぱり支那料理屋かな。
クシャミ行列
めんくらった吾輩がポカンとなったまま部屋のマン中に突立っていると、奥の方の料理部屋らしい処で声がする。向うでは聞こえないつもりらしいが、よく聞こえる。今の女連中の声だ。
「……表の扉《と》をナゼ掛けとかなかったの」
「困るわねえ。今頃来られちゃ」
「ああ怖かった。まるで熊みたい……ビックリしちゃったわ」
「まだ居るの」
「ええ。あそこに突立ってギョロギョロ睨《にら》みまわしているわよ」
「イヤアねえ。何でしょう、あの人……」
「あれルンペンよ。物貰いよ」
「誰か一銭遣って追払って頂戴よ」
「だってこの恰好じゃ出られやしないわ」
「お神さんどこに居んの」
「二階に午睡
前へ
次へ
全131ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング